2025年1月、マチュー・ブラジーの後任としてボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターに就任した英国人デザイナー、ルイーズ・トロッター。彼女は同ブランド史上初の女性クリエイティブ・ディレクターとして注目を集めてきたが、2025年9月27日、ミラノで開催されたショーにて、2026年春夏コレクションとしてついに初のランウェイデビューを飾った。
職人技への敬意から生まれたコレクション
トロッターが今回のコレクションで重視したのは、ボッテガ ヴェネタ が長年培ってきた職人技への敬意だった。「ボッテガ」はイタリア語で「工房」を意味する言葉であり、同ブランドはイタリアのラグジュアリー業界の中でも屈指の職人集団を抱えることで知られている。トロッターはその職人たちからインスピレーションを受け、ウールやレザー、サテンといった伝統的な素材を用いながら、ブランドを象徴する「イントレチャート」の編み込みやノット(結び目)のモチーフを随所に取り入れた。
ランウェイでは、コートやスカート、ジャケットに施されたフリンジが揺れ動き、彫刻的なシルエットとともに幻想的な雰囲気を演出。80年代を思わせるパッド入りショルダーのニットやボクシーなフォルムも登場し、当時のトレンドを現代的に洗練させた仕上がりとなっていた。シューズでは、グリーンやシルバーのメタリックカラーで仕上げたポインテッドトゥのクロッグや、幅広のイントレチャート・サンダルが印象的なアイテムとして話題を呼んだ。
ブランドの歴史と女性たちへの敬意
トロッターは今回のコレクションを通じて、ボッテガ・ヴェネタを一人の「生きた人物」として描き出すことを目指したという。特に着想源となったのが、同ブランドの創業メンバーの一人であり、史上初の女性クリエイティブ・ディレクターでもあったラウラ・ブラッジョンの存在だ。ブラッジョンはかつてニューヨークに渡り、アンディ・ウォーホルの「ファクトリー」の一員としても活動した人物。トロッターは、イタリア人女性がニューヨークへ渡ったときに感じたであろう解放感を思い描きながら、今回のコレクションを組み立てていったと語っている。1960〜70年代、ボッテガ・ヴェネタのデザインが当時の女性たちの解放にどのような影響を与えたのかを振り返る内容にもなっており、ブランドの歴史そのものへの敬意が随所に感じられるショーとなった。
豪華な顔ぶれが見守ったランウェイ
会場は、前任のマチュー・ブラジー(現シャネル)が手がけてきた演出とは対照的に、ムラーノガラス製のスツールのみが並ぶ比較的シンプルなセットで構成された。余計な装飾を排したことで、来場者の視線は自然とコレクションそのものへと集まった。
客席には、ジュリアン・ムーアやウマ・サーマン、ミシェル・ヨーといった女優陣に加え、ドラマ「アドレセンス」で注目を集めた俳優オーウェン・クーパー、さらにはK-POPグループBTSのリーダーRMの姿も。招待制の限られたゲストリストにもかかわらず、会場の外にはRM目当てのファンが集まるなど、ショーへの関心の高さがうかがえた。
なお、トロッターはこのランウェイデビューに先立ち、2025年のカンヌ国際映画祭でもボッテガ・ヴェネタとの関わりを印象づけていた。長年ブランドと親交の深いジュリアン・ムーアに、映画『フェニキア計画』のプレミアで着用するルックを提供。ワンショルダーのドレスが振り返るとレザーのタッセルが流れ落ち、鎖骨部分のノットでまとめられているというディテールは、まさにトロッターらしい「実用性と遊び心の融合」を先取りするものだった。
まとめ
ルイーズ・トロッターの初コレクションは、単なるデザイナー交代のお披露目にとどまらず、ボッテガ・ヴェネタというブランドの歴史、職人技、そして女性たちの歩みへの深い敬意を込めた一夜となった。2026年、ブランド創業60周年を迎える節目を前に、トロッターがこれからどのような物語を紡いでいくのか、今後のコレクションにも注目が集まる。